「今日、空いてたらご飯行かない?」
びっくりした。その通知を見た瞬間、夢かと思った。
高校生の時にその子は、一目惚れに近いような推しメンみたいな憧れを持った子。
ボーイッシュで顔がカッコよくて、休み時間にサッカーをしてて、爽やかで、
眼鏡を外してもかっこいいけど、眼鏡を付けてもすごく似合ってて。
でも近い席の女の子の友達だったから接点はなくて、
私は憧れという枠から逸脱することはできなかった。
それから数年後。
私はいつものように休憩室に向かった。
室内に入ると、人が居て。コック服を着ていた。
見ない顔だな。
あれ、どっかで見たことある。誰だっけ。と頭を巡らせたとき、
パチンッと弾けるように思い出した。
あの子だ。私が憧れていたあの子。
あれ、料理志望だっけ??と頭がはてなになって、
慌てた。でも悟られないように平然を装いながら、カフェオレを飲んだ。
それから上司に相談して、
どうにかその子に同じ高校だったと気づかれるために、
聞こえるように「〇〇高校だったんですよー」とか言ってみたけれど、
全くアプローチが無くて、
私は意を決して、話しかけた。
そしたら、あの子は全く覚えていなかった。
少しショックだったけれど、あのイケてなかった頃を覚えていないのは、
ある意味好都合で。
どうにか話を繋げて、
同じ休憩時間になるように仕事をして、
その子は公務員試験のために1年浪人したことを初めて知って、
ホテルでの心配事、料理をしていて、どうするべきか、とか相談にたくさん乗った。
でもその先に中々進めなくて。
そうしたら、同窓会というイベントが催された。
みんな女の子らしい格好をしていて、私はボーイッシュで浮いていて、
凄く辛かった。
だから会場に着いた後、
入ってすぐの椅子に座って、
必死に耐えていた。
でもその子が会場に入った瞬間、
思わず視線を奪われた。
スーツ姿でありのままの自分で登場していて、
仲のいい人に囲まれていて。
近づきたかったけど、
勇気が出なくて、でも近づきたくて。
そんなもどかしさを感じていた。
ある時、もうムリだ、と会場を後にし、
トイレに向かった時、トイレの前で、ばったり会って、
「お」と言ってくれた。
私とは違う階級というか、
陽キャの人がいるのに、私と会話をしてくれて、
こんな機会もうない、と思って、ライン交換したいって言ったら、
いいよ、と言ってくれた。
それから私は頻繁に自分からラインするようにして、
ご飯まで漕ぎつけた。
どうしても自分を知ってほしくて、
これから起こることを誠実に伝えたいから、
様子を伺いながら、大丈夫だと確信した段階で、
「私女の子が好きなんだ」と打ち明けた。
そしたらきょとんとした顔をして、
「え、私に打ち明けてくれていいの?
ありがとう」と言ってくれた。
「嫌だった?」と聞くと、
「うーうん。知り合いで1人いたけどさ、言ってくれて嬉しい」って言ってくれて、
話の流れは好きな子が居るかになって、
私はその子が好きで、
言ってしまおうかと思った。
でもこのタイミングじゃないと思っていわずに、
ただ目の前で、気づいていない本人の前でその子の好きなところを言った。
「へぇー。私知ってる人?」
「うーん、どうだろ」
「えー誰だろ気になる」
そんな会話をしたと思う。
あっという間に終わって、お別れして、
それからも会社で会って、何度も話した。
楽しくて、楽しくて、
見るだけで癒しで、幸せな気持ちになった。
でも私は、身体を壊し、
会社を休職して退職してしまって、
その子とは会えなくなった。
その後一回あっただろうか、
覚えていないけれど、そうして昨日突然「今日、空いてたらご飯行かない?」と連絡が来た。
忘れていた感情が沸々と沸き上がった。
急に体温が上がって暑くなって、
久々に服何着てこう、アクセサリーは?髪型は?それを2時間前からあたふたし始めたんだ。
会った時、もっともっとかっこよくなっていて、
私はドキドキした。
歩くとぶつかる肩。
その掴めない距離感が余計に心臓の鼓動を早くさせた。
私はその容姿の変貌に、
「彼氏ができたんだろうな」と切なくなった。